私は、平成27年度から厚生労働省の研究事業(医療的管理下における介護及び日常的な世話が必要な行動障害を有する者の実態に関する研究:市川班)で知的障害がある人たちの医療的ニーズに関する分担研究を担当しています。
3年間を予定しているこの研究事業の1年目と2年目の報告書が厚生労働省科学研究成果データベースで公開されました。
1年目となる平成27年度は、社会福祉法人侑愛会の8か所の施設に入所している知的障がいのある成人の方444名を対象に、医療的ニーズの実態を調査しました。
詳細はリンクのpdfをご覧いただければと思いますが、結論としては高齢化と医療の高度化に伴い知的障がいの方を対象とした入所施設でも医療の必要性が増大し、それに対応する制度や施設整備が必要となっているというものです。
以下に抄録を掲載します。
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<研究要旨>
社会福祉法人侑愛会の8か所の入所施設(障害者支援施設)を対象に、入所者の医療的ニーズに関する調査を行った。平成27年4月1日時点で入所していたのは444名(男292名、女152名)で、18歳から90歳まで幅広く分布し、年齢の中央値は男45.3歳、女50.5歳だった。知的障害は重度~最重度が2/3を占めていた。日常生活動作(ADL)はBarthel Indexで5点から100点とばらつきが大きかったが、年齢が高くなるほど、また知的障害が重くなるほど、ADLは低下していく傾向があった。医療的ケアについては、明確な医行為に限っても120件(入所者3.7名につき1件)が行われており、医療的ケアを受けている人たちは年齢が高くADLが低い傾向があった。医療機関は過去1年間(入院は3年間)に440名(99.1%)が何らかの形で利用し、医療と全く関わりなく生活していたのは4名(0.9%)のみであった。403名(90.8%)は何らかの薬物療法を受けており、多剤併用が一般的であった。外来受診は一施設当たり一日5.3名、入院は入所者一人当たり年間1.27日であった。医療的ケア、薬物療法、医療機関の利用など、医療の必要性が施設運営に大きな影響を与えている状況がうかがわれ、今後、これらの状況を踏まえたうえで入所施設の体制整備について再検討する必要があるものと考えられた。
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報告書の全論文はこちらからダウンロードしていただけます。
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do…
<総括研究報告書>
- 市川宏伸:医療的管理下における介護及び日常的な世話が必要な行動障害を有する者の実態に関する研究
<分担研究報告書>
- 市川宏伸:知的障害施設における福祉と医療の連携の現状と方向性
- 高橋和俊:社会福祉法人侑愛会の入所施設における医療的ニーズに関する調査(第1報)
- 市川宏伸:発達障害入院患者についてのアンケート調査(全国児童精神科医療施設協議会)
- 市川宏伸:知的・発達障害入院患者の医療についての調査
- 内山登紀夫:知的・発達障害者の成人精神科病院への入院治療の現状
- 堀江まゆみ、田中恭子:イギリスにおける知的障害のある人への健康維持および医療受診支援に関する調査
- 志賀利一:障害者支援施設等における健康診断の実施状況について
- 市川宏伸:障害児者の健康度調査の現状
- 井上雅彦:小児科外来における発達障害児へのプレパレーションの効果に関する検討