私がイギリスに住んでいたころのこと、王立化学協会が衝撃的な発表を行いました。「紅茶(ミルクティー)を作る時にはカップにまずミルクを注いでから紅茶を注ぐべし」というものです。これは「ミルクが先か紅茶が先か」という議論に終止符を打つべく、数ヶ月間に渡って科学的な分析を行った結果として発表されたものです。
それまで紅茶の淹れ方のゴールドスタンダードと言われていたのは、「1984年」や「動物農場」などで知られるジョージ・オーウェルが1946年に新聞「イヴニング・スタンダード」に寄稿した“A Nice Cup of Tea”という記事で、それによれば、まず紅茶をカップに注いだ後にかき混ぜながらミルクを注ぎいれる、とされています。
これに対して王立化学協会では、熱い紅茶にミルクを注ぎいれると、ミルクが細かい粒子になり熱い紅茶によって変性する度合いが高くなるとして、冷たいミルクを入れたカップに紅茶を注ぐことを推奨しています。また、王立化学協会では、ティ―ポットを暖めるのに電子レンジを使うことを勧めています。そのレシピをご紹介します。
【材料】
アッサム茶の葉(ティーバッグでないもの)、軟水(石灰を除いた水)、冷たい新鮮な牛乳、白砂糖
【器具】
やかん、陶磁器のティーポット、大き目の陶磁器のマグカップ、目の細かい茶漉し、ティースプーン、電子レンジ
【方法】
新鮮な軟水をやかんに入れ、沸騰させます。沸騰するのを待っている間に、ティーポットにカップ1/4杯(イギリスの1カップは250 ml)の水を入れ、電子レンジに入れて最大出力(イギリスでは普通800W)で1分間加熱し、ポットを暖めます。ティースプーンに軽く山盛りにした紅茶をカップ一杯につき一杯ずつポットに入れます。やかんが沸騰したら、ポットをやかんのそばまで持ってゆき、ポットにお湯を注ぎ、かき混ぜたあと、静かに3分間抽出します。はじめにミルクを適量カップに注ぎ、その後紅茶をカップに注ぎ入れます。好みに応じて砂糖を入れます。飲む温度は60-65℃が適当です。あまり熱すぎると飲む時に下品な音を立てる羽目になります。自宅の静かなお気に入りの場所で、座って飲みましょう。雰囲気も大切です。
この発表を受けて、国立物理学研究所では所長名で抗議声明を発表しました。
「これは注ぎいれる順番の問題ではなく、お湯の温度の問題です。化学者は常に問題を複雑にしたがる。これは化学ではなく、物理学の問題なのです」