私はあまり自己啓発本のたぐいのものは読まないのですが、それでも何かのきっかけがあって目を通すことがあります。感心したり共感するようなものはそれほど多くないのですが、中には考えるきっかけになったり、ずっと心に引っかかっているようなものもあります。
そのような本の一つが、スティーブン・R・コヴィー(著)「7つの習慣」です。この本は、自閉症当事者の方に勧められ、そこまで言うなら…という感じで古本を買って読んでみたのですが、結果的にその基本的な考え方はかなりの影響を私に与えることになりました。ただ、全部に納得しているわけではなく、特に「自由意思」をめぐる意見については行動科学に対する誤解があるのではないかと感じているのですが、それでもミッション・ステートメントという考え方を整理できたのは、ドラッカーとコヴィーの著作のおかげと言ってもいいでしょう。
「7つの習慣」の中でミッション・ステートメントとともに強い印象を私に与えたのが、時間管理をするときに物事を緊急度と重要度の2×2マトリックスで分類する、という考え方でした。私はどうしても「緊急で重要なこと」に時間を使ってしまう傾向があります。そうすると、生活のほとんどが「緊急で重要なこと」で占められていきます。私の仕事でいえば、ひっきりなしに鳴り続ける相談の電話、昼休みや時間外にも容赦なく食い込んでくる診察や支援ミーティング、締め切り間近の原稿や講演準備、問題を抱えたスタッフのケアといったことが「緊急で重要なこと」です。こういったことにほとんどの時間を取られていくと、実はとても重要なことに時間を使うことができなくなっていきます。
「緊急ではないけれど重要なこと」とは、私の仕事でいえば、個人的な努力だけに依存しない業務上のシステムを考案する、優先順位を整理して予定を立てる、問題なさそうに見えるスタッフのために時間を使う、最新の文献や貴重な古典に目を通す、新たな技術を身に着ける、地域の中で頑張っている優れた人たちとのつながりを作る、一見仕事とは関係ないようなことに触れて世界を広げる、自分自身の心の健康を保つためにリフレッシュする、といった、意識的に時間を作らなければ決してできないようなことを指します。「7つの習慣」では、最も大切なのは「緊急ではないけれど重要なこと」であり、「緊急で重要なこと」だけに圧倒されてしまわないように、と忠告しているのです。「緊急ではないけれど重要なこと」に時間を使うためには、意識してそのための時間を作ることが必要です。
私の周りを見渡してみると、私だけでなく「緊急で重要なこと」に時間を取られ、急き立てられるように生活をしている人たちが少なくないことに気づかされます。こうやって書いている私も、ちょっと油断をすると、「緊急で重要なこと」に追われている自分に気づきます。私に残された時間は、決して多くはないかもしれません。「緊急ではないけれど重要なこと」をときどき立ち止まって確認しながら、貴重な自分の時間を管理していきたいと思っています。