私はときどき最新の論文に目を通すようにしています。日進月歩の世界では、最新の情報に常に敏感でいることが大切だと考えているからです。自分の経験だけではどうしても得られる情報は限られてしまいますし、自分の視点や考え方が世界の潮流からずれていってしまう可能性もあります。
今回は、少し前に読んだ論文の中から、私の実感に近く、印象に残ったものをご紹介させていただきます。
C Kasari et al. “Making the Connection: Randomized Controlled Trial of Social Skills at School for Children with Autism Spectrum Disorders” Journal of Child Psychology and Psychiatry 2012;53:431-439
これは、60名の自閉症スペクトラム障がい(ASD)の学齢児を15名ずつ4つのグループに無作為に分け、①本人に対するソーシャルスキルトレーニング、②周囲の子どもたちに対するピア・サポートのトレーニング、③両方を行う、④いずれも行わない、の4種類の対応を6週間行った後、3カ月間の追跡調査を行ったというものです。3ヶ月後には、②及び③でASD児の他児との関係やソーシャルスキルは有意に改善し、孤立する程度は減少しました。②と③の効果は同等でした。①は④と同等で、①だけでは効果は見られませんでした。これらの結果は、学齢期においていは本人に対するソーシャルスキルトレーニングよりも周囲の子どもたちの理解が社会性を育てるために効果的であるということを示唆しています。
これは、とても私の実感に近い論文でした。一対一のセッションの中だけでソーシャルスキルトレーニングをしても、現実の状況ではなかなか効果を発揮することができません。いいかえれば、特殊な場面で学んだことの般化の難しさということです。ですから、むしろ実際の状況の中で成功できる経験、「こうすればいいんだ!」とわかる経験を積むことが、結局は最も効果が高いわけです。
この論文は、最も効果的なソーシャルスキルトレーニングは本人が毎日の中で小さな成功体験を積み重ねていくことである、ということを示唆しているのだと思います。私たちがなすべきことは、本人へのトレーニングだけでなく、その人が持てる力を十分に発揮しやすい社会的な状況を作ることなのですね。