確か2004年の4月か5月ごろのことだったと思います。私がTEACCHで勉強していたとき、創始者のショプラー先生ご夫妻とCarolina Innでお茶をご一緒させていただいたことがありました。
私はイギリスでもアメリカでも、TEACCH以外のプログラムを見学する機会が結構ありました。おおむねどのプログラムもTEACCHに影響を受けたと思われるような視覚的構造化の工夫を大なり小なり取り入れていましたが、明確にTEACCHの影響について言及しているものはありませんでした。TEACCHシンパだった私はそれに憤慨し、構造化するんだったらちゃんとTEACCHに言及すべきだと常々思っていました。そこでその機会に、そのような状況をどう思うか、ショプラー先生に質問してみたのです。
ショプラー先生は笑って答えました。「TEACCHが使っているテクニックはすべてがTEACCH発のものというわけではない。TEACCHは、いろいろなものから学んで、自閉症の人たちにとって役に立つと思われるものを取り入れてきた。だからことさらTEACCHを主張しようとは思わないし、TEACCHが作り上げたものや発展させたものがまた広がって、世の中の自閉症の人たちにとって利益があれば、それでいいと思っている」と。
私は、TEACCHの考え方や支援技法が日本でこれだけ広まり、自閉症の人たちの生活の質の向上に一定の貢献をしてきたのは、そのことを自由に学び、議論し、実践し、批評し合うことができたからだと思っています。そして、それはショプラー先生のお人柄によるところも大きかったような気がしてなりません。ショプラー先生亡き後、日本における公認制度を巡る混乱が、この良き伝統を損なう結果にならないよう願うばかりです。