オキシトシンの治験がニュースになっていますね。
8月には、PNAS(米国科学アカデミー紀要)にこんな論文が出ていました。
KJ Parker et al. Plasma oxytocin concentrations and OXTR polymorphisms predict social impairments in children with and without autism spectrum disorder. Proc Natl Acad Sci USA. 2014 Aug 19;111(33):12258-63
要は、オキシトシンは確かに社会性に一定の影響を与える可能性はあるものの、自閉症の主要な要因ではない(=ほとんどのケースではオキシトシンの投与によって自閉症そのものの治療ができるわけではない)と結論しています。ニュースを見ていると期待をあおりすぎていないかとちょっと心配になりますね。
8月5日にLIUB Hakodateのタイムラインにこの論文について記事を書いたのですが、いい機会なので引用しておきます。
***以下引用***
今日は、つい最近発表された論文から、注目を集めるオキシトシンに関する研究をご紹介します。
(Autism Speaksの解説記事はこちら)
オキシトシンは、主に出産時や産後の女性で盛んに分泌される、子宮収縮や授乳にかかわるホルモンです。医療では陣痛促進剤として使われています。このホルモンが、最近、男女にかかわらず社会性の機能にも関与しているのではないか、と注目されるようになったのです。特に注目されているのが、自閉症スペクトラム障がい(ASD)との関係。論文のタイトルは、「オキシトシンの血中濃度とオキシトシン受容体の多型はASDがあってもなくても社会性の障がいを予測する」というもの。結論から言うと、オキシトシン自体はASDの原因ではないが、ASDの有無とは独立に社会性の能力に影響を与える、ということです。
この「米国科学アカデミー紀要」に発表された研究では、ASDの子ども79人とそのきょうだい児52人、家族に自閉症の人がいない定型発達の子ども62人を調べました。その結果、この3つの群の間には、オキシトシン血中濃度の差は見られませんでした。しかし各群の中では、オキシトシンの血中濃度が高い方が、社会性の能力が高い傾向がありました。このオキシトシンの血中濃度の高さには遺伝性も見られ、その遺伝性の程度は身長の遺伝性と同程度でした。
さらにこの研究では、オキシトシンが結合してその機能を発揮するオキシトシン受容体について、遺伝子の多型(個人差)を調べました。すると、社会性の機能と遺伝子多型の間にも一定の関係が見られました。
以上のことから、オキシトシン自体はASDの原因ではないことが示されました。
これは、オキシトシンの投与によってASDそのものの治療ができるわけではないことを示しています。
その一方で、オキシトシンがASDの有無にかかわらず社会性の機能にかかわっている可能性も高いことから、もともと血中濃度が低い人にオキシトシンを投与することで社会性の機能にある程度の向上を期待できる可能性があることを示唆しています。どんな人にどのくらい投与するとどの程度の効果が期待できるのか、副作用の問題はないのか、長期的な効果はどうなのかなど、臨床応用にはまだまだ課題も多い段階ですが、ASDの人への短期間の投与によって社会性やコミュニケーションに対してわずかながら機能の向上が見られたという研究もちらほら見られるようになってきています。
過剰な期待は難しそうですが、注目されているご家族や当事者の方がいらっしゃるのも事実。今後の研究の進展に期待したいところです。