36. 子どもにオキシトシンのことをきかれたら

オキシトシンに関する報道が相次いでいるなか、子どもたちもそれと無縁ではいられません。先日、あるお母さんから電話がありました。自閉症のお子さんが、オキシトシンに関するニュースをインターネットで見て「鼻から薬を入れると、自閉症が治るの?」と聞いてきた、というのです。急いで私の外来を予約していただき、お子さんにオキシトシンについて説明することにしました。

お子さんに実際にお会いして聞いてみると、お母さんから事前に伺っていたとおり、インターネットのニュースを見て、「自分も薬の治療を受けなければならないんだろうか?」と不安になったようです。あらかじめ作っておいたスライドを使って説明をすると、とても安心したようでした。数ヶ月後にも外来に来ていただき面談しましたが、その後は特に変わったことはなかったとのことで、落ち着いて生活できている様子でした。

(スライドはこちら。実際にはパワーポイントで作成しています)

このスライドは単なる私の意見というわけではなく、以前もこのブログで取り上げたParkerらの論文に基づいて作成したものです。このように、私がお子さんに何かを説明するときには、いくつかの大切な原則があります。

①ウソをついたりごまかしたりしない:たとえば、「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんだよ」など、便宜的にでも科学的に正しくない伝え方はしない。
②絶対的事実と部分的に正しいことを区別して伝える:たとえば、「鳥は空を飛びます」ではなく「たいていの鳥は空を飛ぶことができます」と伝える。
③誰にでも通用する根拠のある内容にする:たとえば、子どもに障がいについて説明する場合には、WHOのICFに基づいた説明や、障がいの3つのモデルに基づいた説明をする。

(※追記:スライドを見返して見ると、②の点で正確でなかったことに気づきました。「オキシトシンは自閉症の原因ではないことがわかりました」と言い切ってしまっていますが、「たいていの自閉症の人ではオキシトシンは自閉症の原因ではないことがわかりました」とすべきでした。ここは反省点です。)

一言でまとめると、言葉をわかりやすく簡単にすることはあっても、内容は大人に説明するときと変わらないものにするということです。

たとえ子どもに対してでも、誠実に、正確に。そのためには私自身が正確な知識を持つことも大切です。今後もこの原則を忘れずに、最新の情報に敏感でいると同時に、お会いする一人ひとりの方に対して丁寧な説明を心がけていきたいと思っています。

函館で発達にかかわる診療をしている医師です。

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